渓流手帖

紫雲谷

新潟県

名立川の右岸に入る支流で、粟立山(1,194メートル)の北面へ突き上げる渓谷。名立谷の人が住む最後の集落である東飛山から、山あいの水田地帯を上流へたどった中流域の小さな取水堤の上で本流から分かれる。古くから「ション谷」と呼ばれてきた。 1,200メートルに満たない低山の沢でありながら両岸が高い。矢代山地は標高こそ低いが降雪と積雪が国内でも特筆すべき量になるため、周辺の渓谷も雪に磨かれて1,000メートル級の山のものとは思えない姿になっている、と地元の山岳会が書いている。 渓流釣り場としては知られている一方、稜線を目指して遡行する人は少ない。出合から入ると下部に堰堤が三つあり、最後のものは右岸から越えて入渓する。最後の堰堤の下まで左岸に藪だらけの工事林道跡が残っている。そこから先は地形図のとおり幅の広い谷で、水量が少ないと分流して中州状態が続く。流れが一本にまとまって渓相が良くなるあたりから竿を出すのが楽しい区間になる。 両岸が狭まってくると大きな釜を持つ10メートルの魚止めの滝が現れる。右岸が大きくオーバーハングしたこの谷で最大の滝で、左岸から越すことができ、左岸にはトラロープが固定されていた。古くからの習慣で、釣り人はこの滝で竿を収める。ただし移植放流によって滝の上流にもいわなは生息していて、旧魚止めの滝の上にも魚がいると記録されている。山岳会の案内はそこに「乱獲は慎んでいただきたい」と一文を添えている。 滝を越えるとすぐ右岸から三段の滝になった左俣が合流する。この左俣は1998年11月15日に地元の山岳会と直江津山岳会の三名がトレースしている。本流はここから渓相が穏やかで美しい流れになり、右岸が高く、釜の発達した5メートル内外の滝が続くが困難なものはない。源流部は草藪のなかの遡行になり、標高約1,000メートルで右岸に小さな涸沢を分ける。ここが紫雲谷が矢代山地の主脈にもっとも近づく地点で、この小沢をたどれば粟立山と中ノ岳のあいだのコルに立てる。粟立山に登山道は無いので山頂は放棄したほうがよい。 釣りをしながらの参考タイムは、名立川出合から魚止めの滝まで1時間30分、そこから標高1,000メートルの右岸小沢まで3時間、矢代山地の主脈まで20分、基幹林道まで30分、粟立峠まで20分。特別な装備は要らず、しっかりしたリーダーがいれば沢が初めての人でも歩ける。詰めの藪漕ぎはほとんど無い。下山に荒れた林道を西野谷へ下ると2時間から3時間かかるので、スキー場林道から粟立峠に車を置いておくほうが楽である。 2010年9月4日の記録では、猛暑で水量が極端に少なく、名立川本流から紫雲谷への徒渉が「お遊び」と書かれるほどだった。このときは上部が屋根のトヨ状になった3メートルの滝でも魚が出ず、滝を越えてようやくかけたいわなは6寸、良型を1本ばらしている。水が少ないと魚が岩陰から出てこない、と書き手は結論している。毛鉤で入るなら水量のある時期を選んだほうがよい。 1974年に新潟県内水面水産試験場がまとめた調査報告は、名立川取水ダムより上流の生息域を「名立川、神葉沢、柴谷」と書いている。この柴谷が紫雲谷を指すのかどうかは確かめられていない。 名立川水系には内水面の漁業協同組合が無い。新潟県が公表している第五種共同漁業権の設定状況は内共第1号から第22号までの22件で、その全文と漁場図、対象魚種一覧のいずれにも名立川と支流の名前は出てこない。東隣の桑取川は内共第17号、西隣の能生川は内共第18号だが、そのあいだにある名立川だけが漁業権の設定されていない川になっている。新潟県内水面漁業協同組合連合会の遊漁のしおりにも名立川の欄は無い。したがって遊漁券は存在せず、遊漁料を払う相手もいない。 古い河川ガイドのなかには、名立川を桑取川漁業協同組合の管轄として桑取川と同じ行にまとめ、解禁3月1日から9月30日、日券1,000円、年券5,000円と書いているものがある。2001年時点の中部渓流ファイルがそれで、記載どおりに読むと遊漁券が要ることになるが、県の漁業権の設定状況に名立川の免許は存在しない。古い記載のほうを疑ったほうがよい。 漁協が無くても、期間と全長の制限は新潟県漁業調整規則第37条が県内全域に効く。いわなとやまめは10月1日から翌年2月末日までが採捕禁止で、実質的に釣れるのは3月1日から9月30日まで。全長15センチ以下のいわなとやまめは一年を通して採捕できない。これは漁業権の有無と関係なく適用され、違反すれば罰則がある。 同じ規則の第35条で、水中に電流を通じる漁法、瀬干漁法、ごろかけ漁法、潜水器を使う漁法、水中銃、火光を利用する漁法が禁止されている。ブラックバス類とブルーギルを釣った水域に放すことも、新潟県内水面漁場管理委員会指示で禁じられている。 漁協が無いということは、放流する者も監視する者もいないということでもある。名立川の渓流魚は放流に支えられていないので、小さい魚を持ち帰らないという一点が、そのまま来年その川に魚がいるかどうかを決める。

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釣行記5

釣り方:
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